傀儡の恋

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 自分の意識はあのとき、光の中に溶けたはずだ。
 それなのに、どうしてここでこうして思考をしているのだろうか。
 そんなことを考えながらラウは目を覚ます。
「……私は、生き残ったのか?」
 あの状況で、と呟く。
「残念だが、君は死んだよ。一度ね」
 聞き覚えのあるような声が耳に届いた。
「まぁ、それは僕も同じだけど……いや、ここにいる者達の多くが、と言い直すべきかな」
 自分達は幽霊だ、とその声の主は続ける。
 視線を向ければ、嫌なくらい見覚えのある人物がいた。
 しかし、本人ではないらしい。彼から伝わってきたあれこれが目の前の相手には感じられないのだ。
「……君は?」
 そして、ここはどこなのか。ラウはそう問いかけた。
「とりあえず、僕のことはブレアと呼んでくれればいい。ここは《一族》の研究施設だ」
 彼の言葉にラウは眉根を寄せる。
「《一族》だと?」
 と言っても、ラウも名前を聞いたことがあるくらいだ。詳しいことまでは知識にはない。せいぜい、人類の歴史を裏から操ってきた者達だ、と言うぐらいだ。
 しかし、その組織が何故、自分を……と思う。
「そう。ここで研究されていたのは《カーボン・ヒューマン》だよ」
 また新たな言葉が出てくる。
「カーボン・ヒューマン……」
 だが、それが自分がここにいる理由なのだろう。
「簡単に言えば、記憶などを素体と呼ばれているボディに押し込めた存在、だね。と言っても、今のところ成功しているのは僕と君、ぐらいかな」
 おそらく素体との相性がいいのだろう。彼はそう続けた。
「君と私に何か共通点でもあるのか?」
 一番の要因は自分達があの父子と関係があると言うことだろうか。
 それに彼は少しだけためらうような様子を見せた。だが、すぐに口を開く。
「死ぬ前の僕たちが……クローンだったから、かな?」
 やはりと言えばいいのか、それとも、まだ同じことを繰り返していると言うべきか。
「……ならば、新しいものを作り出せばいいだろうに」
 壊れかけた自分よりももっと長生きするであろう存在を、と言外に付け加える。
「君の寿命の問題は解消されていると思うよ。僕と違ってね」
 いや、自分で失敗したからその点を修正したのか。ブレアは苦笑とともにそう告げる。
「だから、安心していい。いや、安心できないかな? その分、こき使われる可能性はある」
 このままならば、と彼は続けた。
「つまり、わざわざ死んだ人間を生き返らせて何かをさせようという訳か」
 余計な事を、とラウは吐き捨てる。
「そうだね。やるべき事を終えて眠ったはずが、こうして引き戻された。その事実はあまり嬉しくないね」
 自由があるならばまだしも、とブレアは頷く。
「それでもここにいる以上、当面はおとなしくしていた方がいいだろうね」
「当面?」
「君が動けるとなれば仕事を押しつけられると思うよ。あまり君が望まないような、ね」
 あきらめて、とブレアが言外に告げる。
「……たとえば?」
「そうだね。《一族》が危険視している人間が十三人ほどいる。その人物の監視かな?」
 それをするのは他の誰かでもいいのではないか。
「私の顔は皆知っていると思うが?」
 あれだけのことをしたのだ。間違いなく知られていると言っていい。
「そこに鏡があるから、今の自分の姿を確認してみればいい」
 彼の言葉に視線を移す。確かに大きな鏡があった。そこには二人の人物が写し出されている。
 一人はブレアだ。
 しかし、もう一人は、最後の記憶の中にある自分ではない。むしろ少し成長した『レイ』だと言われた方が納得できる。
「……何故……」
 生き返ったことよりも何よりも、それが一番衝撃的だった。

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最遊釈厄伝